多様化する「学部・学科」
「グローバルメディアスタディーズ学部」、「アジア太平洋学部」、「リベラルアーツ学部」、「キャリアデザイン学部」。ずらりと並んだこの学部で、いったい何を学ぶのか、おわかりになる保護者はほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。昔と違い、いずこの大学もこうしたカタカナ学部、カタカナ学科のオンパレードです。
受験生の親御さん世代の受験時代は、学部名は単純明快で選択に迷うということはなかったのではないでしょうか。女子ならとりあえず文学、男子なら法科万能で法学部。あこがれの大学ならなんでもいいというなら、経済、経営、商学部。数学が得意なら理工系、そこでズバ抜けていたら、家族の期待を背負って医学部をめざそうかというのが一般的だったはずです。
ところが、学部の種類が400を超えるまでに膨らむと事情は一変します。やはりその背景には大学設置基準の自由化が横たわっています。前述したように1990年に大学設置基準の自由化が行われ、学部・学科の改編や新設がしやすくなりました。規定そのものが撤廃されたり、審査期間が短縮化されたりするとともに、学部・学科の改編については、これまでは認可制だったものが、学問分野を大きく変更しないものについては届出だけで済むことになりました。
これにより、多くの大学が既存の学部・学科名を若者受けする学部・学科名に変更し、その教育内容も時代の最先端をいくような内容にアレンジしたものに差し替えが頻繁に行われるようになったのです。玉石混交とよくいわれますが、中には、学生の人気取りだけのために、今風の名称の学部・学科名に変更しただけというところもあります。
「認可制」を「届出制」にすることで、よりスピーディーに新しい教育のしくみを導入できるという利点がありますが、教育の「質」補償という点では、ある程度大学の自己チェックに依存せざるを得なくなってしまったのです。つまり、保護者は学生を育ててくれる教育のしくみが整っているかどうかをしっかり見極めていかなければならないという重い宿題を課せられていることになるのです。
大学選びより難しい学部・学科選び
この宿題がどれだけの負担かというと、学部の数を聞いただけでも気が遠くなるのではないでしょうか。その数なんと2300余りといわれます。それを「偏差値で選ぶな!」というのですから、途方にくれてしまうというのもうなずけます。
受験雑誌などでは「なりたいものを決めましょう」などと書いていますが、17・18歳の高校生が将来を決めるなんてどだい無理な話なのではないでしょうか。やはり、ここは親がしゃしゃり出ていいところです。もちろん、しゃしゃり出るには、確かな情報をつかんでおかなければなりません。ここはやはり、大学案内などを取り寄せて、しっかり学問の内容を勉強する必要があるでしょう。
そんな心配の一方で、大学案内をよくよく眺めてみると、保護者の時代に比べて、ずいぶん面白そうな学部・学科がたくさん見つかります。「へ~、大学ではこんなことまで研究材料になるんだ」、「確かに、将来はそんな世の中になるんだろうな」とうらやましかったり、勉強になったりする学部名が並びます。
日本初という「危機管理学部」を新設した千葉商科大学が開設した防災・環境安全・危機管理の3学科もそうった学部に数えられるでしょう。さまざまな分野で危機管理がいわれている時代ですから、たしかに将来性がありそうです。
また、北陸大学には、「未来創造学部」というなんとも先進的な学部があります。経営、経済、金融、法律、地域研究、国際関係、医療経営などの15の分野から組み合わせて学ぶことで既存の学問の枠組みを越えた横断的な知識を身に付けるのが目標といいます。
ロマンあふれる将来をほうふつさせてくれるのが、吉備国際大学の「文化財部文化財修復国際協力学科」です。文化遺産などの修復・保護技術を探求する学科で、美術館・博物館での実習も豊富といい、学芸員の道を究めます。
新しい学科ではありませんが、大東文化大学の書道学科は、書道家を養成する伝統の領域に達した学科です。徹底して書道を訓練するのはもちろんですが、書の歴史や鑑賞法を学ぶのはもちろん、伝統のわくにはまらない書の芸術的可能性を探求したり、書を通じた国際交流も行います。
伝統の国際化という意味では、花園大学の「国際禅学科」はそのものズバリといえそうです。臨済禅を学ぶ学科で、国際という名の通り、タイでの国際ボランティア活動、インド仏跡セミナー、アメリカ禅センター研修、厳しい雲水修行を経験する実習もあります。
こんなはずじゃなかったにならないように
ここで注意しなければならないのが、これだけ細分化・専門化すると、似た学部・学科名であっても、学ぶ内容は全然違うということがあるということです。たとえば、「情報」がつく学科には、「環境情報学科」、「情報ビジネス学科」、「情報システム学科」、「情報ネットワーク学科」、「情報メディア学科」、「情報コミュニケーション学科」など似たような名称がズラリと並びます。
同様に、「環境」と名のつく学科も「生活環境学科」、「生命環境学科」、「地球環境学科」、「人間環境学科」、「環境社会学科」などがあります。「環境」とつくからには環境問題について学ぶのだろう、「情報」とつくからには、コンピューターのことをやるのだろうといったおおざっぱなイメージだけで判断してしまうと、思ってもみない学問に挑むことになってしまうのです。
「環境」にしろ、「情報」にしろ、社会学系から経済系、理工系学部など幅広くこの名を冠する学部・学科はあり、当然、学問ごとにアプローチ方法は異なり、プログラミングやコンピューターネットワークといった技術寄りで学ぶところもあれば、社会学的や法律的に学ぶというのもあります。学ぶ内容が異なれば、そのスキルを生かせる就職先企業や業種も違ってくることになります。
とくに理系の場合は、勘違いしていたでは済まされません。というのも、多くの時間を専門の実験や研究に費やすことになりますから、その分野が好きでなければ、とてもついていけないからです。もともと理系の場合、「やってみたいこと」と「好きなこと」は別ともいわれます。「やってみたいこと」だったけど、入学してから「やってみたいことではなかったと気がついた」では、あとの祭りです。
ここであげたのはほんの一例にすぎませんが、現代の大学の学問はとても幅広く、バラエティに富んでいます。お子さんと一緒に大学案内をとりよせて、どんな学部・学科があるのか、その中でお子さんがどんなことに興味があるのかをじっくり話し合ってみてください。それがすんだら、大学の説明会やセミナーに参加し、親子で見つけた学部にまがい物はないかしっかり確認してください。
また高校によっては、1・2年からオープンキャンパスに行くようにと生徒たちに働きかけているといいます。早くから大学にはどんな学部・学科があるのかを知ることも自分の中の興味や関心を意識するように促す試みになります。ぜひ、ご家族で出かけてみてください。