総合型選抜試験に未来を予感
世の中の価値観を一変させたcovid-19こと、新型コロナウィルス。大学という学びの場も、その影響は多大なもので、机を並べての授業はもちろん、留学、研修旅行も自粛。サークル活動も自重が求められ、関連するイベント、大会も中止を余儀なくされている。さらに、社会勉強であり、実践的経済活動になるアルバイトも壊滅的状況で、中退という最悪の選択を迫られる学生も相次いでいる。
こうした最悪のスパイラルは、大学生だけでなく受験生にも及び、それはそのまま大学運営にも影響し、各大学ともその対策に追われている。
顕著なのが受験生の減少である。もともと急激な少子化で大学運営は難しい時代を迎えていることが指摘されてきた。しかし、大学進学率の向上で各大学とも楽観的傾向にあり、とりわけ、都心の有名大学は黙っていても学生が集まるという前提での取り組みに甘んじてきた。
そこをついたのが今回のコロナ騒動。21年度の大学受験生は64万人を下回り、22年度はさらに減少傾向にあることが指摘され、ある予備校関係者は、今後2万人ずつ減っていくと分析。しかし、新型コロナウィルスの健康的被害に加え、社会的影響を考え併せていくと、減少が激化する可能性は大と言わざるを得ないのが現状である。
なんとも憂鬱極まりない話であるが、受験生にとって悪いことばかりではない。まず、受験生が少なくなれば、大学に選ばれるのではなく、選ぶ側に回ることになる。そうなると、大学は偏差値に頼った運営では立ち行かなくなり、真に学びたい学生に門戸を開く必要に迫られることになる。つまり、肩書欲しさの学生ではなく、学びに意欲的な学生をいかに発掘するかにかかってくるわけである。
そうした社会変動に対応するためには、暗記とノウハウに偏った学力試験での選抜より、これまでAO試験と呼ばれてきた、総合型選抜試験の充実化に重きを置くことが重要になる。もちろん、大学での学びには、学習能力も不可欠であることに間違いはない。しかし、そこに力点を置いた選抜だけでは、グローバル化著しい時代に学びの発展性、研究の深堀はとても望めない。
俄然、脚光を浴びるAO、いわゆる総合型選抜試験であるが、一つの懸念もある。
それは予備校などで開講しているAO選抜試験対策である。総合型選抜試験は、本人の意欲と探求心、好奇心を発揮して、勉学、研究にいそしむという大前提がある。そこに受験ノウハウが介在されるのは、本末転倒。この試験の意義を失いかねない、由々しき問題といえるのではないだろうか。
大学側がこうした社会現象を敏感に捉えて対処するのはもちろん、受験生もノウハウを身に付けることより、自分は何のために大学に行くのか、そして、その先にある未来像をイメージした上で大学を選び、受験に臨んでほしい。
ジャーナリスト 仲博人