大学の選択肢の一つ、就職に強い大学!

あの手この手の就職支援

わが国が高度経済成長を迎える前の時代、「大学は出たけれど」という小津安二郎の映画が封切りになり、はやり言葉になりました。これは、大学を出たものの定職につけない若者が多かった当時の社会を描いた作品ですが、あれから半世紀以上を経て同じ言葉が巷で飛び交っています。

大卒の就職率はやや持ちかえしているとはいいますが、周囲に多くの契約、派遣という雇用形態の社員みれば、わが子の将来が心配になるのもたしか。就職だけのために大学に行かせるのではないとはうものの、わが子には普通に就職してもらい、普通の人生をと願うのが親心というものです。

そこで気になるのが、めざす大学の就職状況です。むしろ、大学の評価は偏差値より就職力という声は多く、各大学とも競うように就職支援の充実化を図っています。

大学生の就職活動は3年3月から始まるとなっているものの、水面下では早期化が加速しており、それに警鐘を鳴らす関係省庁もあります。しかし、就職活動は椅子取りゲームの様相を呈し、お上のいうことなどに耳を傾ける機運はまったくありません。

大学は就職するためのものではないと反論もあるでしょうが、就職支援を教育の一環ととらえれば、就職活動は大学に入学した時から始まっているというのが大学側の考え。そこには孤立する学生の存在や中退率の上昇などの問題も絡んではいますが、自ら考え、自ら行動する人物創生という本来の大学教育を修了した卒業生でないと受け入れ側、つまり企業の満足が得られなくなっているのです。

というのも、雇い入れた新人が仕事を覚えるか覚えないかという時期に、「想像していた仕事と違う」、「上司に耐えられない」、「職場の雰囲気に馴染めない」といった理由で次々と退職してしまうというのです。

終身雇用制度がなくなったこの時代に帰属意識を期待するのは虫のいい話にも聞こえますが、大手でさえも新入社員の半分が3年以内でやめてしまう企業もあると聞くと、もっと我慢ができないものかと小言の一つもいいたくもなります。

しかし、その責任は若者だけに負わせられるものではありません。大企業や有名企業にどれだけ学生を送り込むかということだけに力を注ぎ、学生の適性や希望をないがしろにしてきた大学にも大きな責任があります。

大学を監督する立場の文科省もこうした社会現象を前に就職支援の包括的な充実化を要請、各大学とも就職部をキャリアセンターという大きなくくりに組み込む形で学生たちのキャリア支援に乗り出しました。そこでは一人ひとりの個性、特技、そして希望する将来をとことん話し合い、有名、無名はさておいて、その人にマッチした就職先を見つけることに主眼を置くことを理想としています。

しかし、個に寄り添った支援というのは口でいうほどに簡単なものではありません。就職試験に向けての学習指導はもとより、エントリーシートの書き方から面接の極意まで微に入り細を穿つ指導を実現するためには、もっと川上、つまり低学年からの指導が必要になりますし、スタッフのスキルも問われます。それを整備できる力、それが大学力で、大学の実力ということになるのです。

人間力の育成

 大学が力を入れている支援のひとつにエントリーシート対策があります。この言葉おわかりになりますか?企業にアプローチする際に送るいわば「履歴書」です。ただし、企業ごとに独自の書式があり、記入する内容はそれぞれで違います。したがって、自分のあらましを時系列に記入すればいいというものではありません。

それでも書類であるに違いはありませんから、書き入れ方には工夫が必要です。やはりキラリと光る何かがなければ、採用担当者の目には止まりません。第一関門を突破しないことには次のステップに進めませんから、各大学ともこの書き方の指導に余念がありません。

とりわけ大事なのが志望動機です。企業でも少しでも人となりが見えるようにと工夫を凝らし、「あなたが学生時代に力を入れたことを具体的なエピソードを交えて教えてください」といった学生の内面に迫るものや「今、最も関心のあるニュースはなんですか?」など時事問題の知識や関心の高さを測る質問を独自に用意しています。ここで優等生的なありきたりなことを書きこんだのでは面白味がないような気がしますし、奇をてらいすぎても逆効果ということもあります。

そこで就職支援センターやキャリアセンターでは、自己分析を通してテーマ決めのアドバイスをしたり、「構成はこういうふうにした方がいい」とか「もっとこういう言葉を使った方が採用担当の人の目に留まりやすいよ」、あるいは、業界別・企業別に好まれる書き方などもアドバイスするのですが、一度で済むことはまずありません。アドバイスをもらっては書き直すを繰り返すのがほとんどです。こうしたエントリーシートの添削を「いつでも何度でも」を売り文句にする大学もあります。

それで自分を上手に表現するテクニックを身につけたと喜ぶ学生もいますが、テクニックだけでは事足りないとする大学もあり、そこで力量差を計ることができます。

ウリをつくる キャリア教育

企業の人事担当者はそれこそ百戦錬磨も目利きです。ただの受験テクニックだけでは、激化する就職戦線を勝ち抜くことはできません。どんなに上手に化けてみてもメッキははげるのです。

「あなたが学生時代に力を入れたことを具体的なエピソードを交えて教えてください」という質問に答えるには、将来こうしたことが問われることを意識した大学生活送っておくことが大事になるわけです。

つまり、サークル活動をするにしても漫然と参加するのではなく、部長に立候補してリーダーシップ力を身につけようとか、記録に挑む自分のモチベーションはいかにして維持されているのかということを常に意識していなければなりません。それこそが、企業が求める自分で考えて行動する学生ということになるのです。

そうした要望に応えるには就職支援をキャリア教育という枠組みでとらえ、1年次から指導することが望まれます。そうしたプログラムがあるかどうか、子どもの将来を考えると必ずチェックしなければならないポイントといえるでしょう。

一口にキャリア教育といっても、学生が自由に参加できる課外講座などのプログラムもあれば、必修科目の中にキャリア・デザインといった科目を取り入れるなど、大学によってその内容はさまざまです。

中には学部の授業すべてがキャリア教育・就職支援となっているケースも多く、大学というより職業訓練所という悪口が聞こえてきそうではありますが、キャリア教育も大学が標榜する教育の範疇。学問の醸成、人間的成長、そして就職ということを考えると決して見逃せない方針といえるのではないでしょうか。

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